インドネシアの人財の受入れを検討される際、宗教についての疑問が出てくることがあります。毎日のお祈りで仕事が中断されないか。断食の期間はどうなるのか。ヒジャブを着用した方が製造現場で安全に働けるのか。とくにイスラム教徒の従業員を受け入れた経験のない職場にとって、こうした疑問を持たれるのはごく自然なことです。本記事では、企業と働く方が率直に話し合えるよう、基本的な事実と実務的な工夫をまとめました。信仰の実践は人によって異なるため、一般的な背景としてお読みください。
インドネシアの暮らしと信仰
インドネシアは多様性に富んだ国です。内務省の住民登録データ(2024年上半期)によると、国民の約87%がイスラム教徒です。プロテスタントが約7%、カトリックが約3%で、ヒンドゥー教、仏教、儒教の信者や、土着の信仰を持つ人々もいます。国家の基本理念であるパンチャシラの第一原則は「唯一神への信仰」であり、身分証明書(KTP)には一人ひとりの宗教または信仰が記載されます。
多くのインドネシアの人々にとって、信仰は日々の暮らしの一部であり、誠実さ、規律、感謝の気持ち、家族を大切にする心といった価値観と結びついていることがよくあります。一方で、信仰は個人的なものであり、どの程度、どのように実践するかは人によって大きく異なります。思い込みで判断せず、お一人おひとりに確認されるのがよいでしょう。
礼拝(お祈り)とは
イスラム教徒は1日5回、インドネシア語でsholat(サラート)と呼ばれる礼拝を行います。夜明け(スブー)、正午(ズフル)、午後(アスル)、日没(マグリブ)、夜(イシャー)の5回です。時刻は太陽の位置で決まるため、季節や場所によって変わります。
- 短時間:1回の礼拝は、ウドゥ(顔、手、腕、足を水で清めること)を含めて、通常5〜10分程度です。
- 勤務時間内は一部のみ:一般的な日勤では通常1〜2回(正午と午後)です。夜明けと夜の礼拝は、ふだん自宅で行います。
- 時間帯に幅がある:礼拝は決まった1分ではなく、一定の時間帯の中で行えます。東京では、正午の礼拝の時間帯は11時30分〜12時ごろに始まって数時間続くため、通常の休憩時間内に行えることが多いのです。
- 季節による変化:冬は日没の礼拝の時刻が終業前になることがあり(東京の12月で16時30分〜17時ごろ)、休憩時間を決める際に考慮しておくとよいでしょう。
- 礼拝をまとめて行うこと:旅行中など一定の状況では、2回の礼拝をまとめて行える(ジャマ)と理解しているイスラム教徒も多くいます。仕事の場面でこれをどう扱うかは個人の判断です。
業務への影響はあるのか
多くの場合、所要時間は短く、休憩時間内に組み込むことができます。インドネシアの人財の多くは、日系企業の工場を含め、インドネシア国内の製造業で働いた経験を持っています。インドネシアの労働法は、使用者に対し、労働者が礼拝を行うための十分な機会を与えることを定めており、現地の工場では小さな礼拝室(ムショラ)を設け、礼拝の時刻を考慮して休憩時間を組むのが一般的です。インドネシアの日系企業は長年、生産計画と礼拝を両立させてきており、そうしたルールに慣れている方も多くいます。
大切なのは、その場ごとではなく、いつ、どこで、どのくらいの時間かを事前に取り決めておくことです。日本の労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩が必要とされており、所定の休憩時間内で礼拝を行えることが多いでしょう。何よりも安全が優先です。取り決めのないまま生産ラインや機械から離れることは認められず、このルールは最初に明確に説明しておくことで守られやすくなります。
よくあるご質問と実務的な工夫
企業の方からよくいただくご質問と、多くの職場で取り入れられている工夫をまとめました。最適な方法は職場ごとに異なるため、働く方ご本人と話し合って決めることをおすすめします。
| 項目 | 概要 | 実務的な工夫 |
|---|---|---|
| 礼拝の場所 | 立つ、お辞儀をする、ひざまずくことができる、清潔で静かな場所です。広さは礼拝用マット1枚分程度です。 | 休憩室の一角や小さな会議室で十分な場合が多く、特別な工事は不要です。礼拝用マットと、清めに使える洗面所があると助かります。 |
| 金曜礼拝 | 男性は通常、金曜日の正午ごろにモスクで集団礼拝に参加します。移動を含めて1時間程度かかることがあります。 | シフトの調整、昼休みの活用や延長、個別の相談などの方法があります。モスクが遠い場合もあり、毎週は参加できないことを理解している方もいます。 |
| ラマダン(断食月) | 年に1か月、夜明けから日没まで飲食をしません。時期は毎年約11日ずつ早まり、2027年と2028年はおおむね1月下旬から3月上旬にあたります。 | 断食は個人的な実践であり、例えば病気の方や旅行中の方は断食をしないことがあると理解しているイスラム教徒も多くいます。重作業や暑い場所での作業では疲労や脱水に注意し、日没前後の休憩のタイミングを検討し、月末のイドゥル・フィトリ(レバラン)の休暇は早めに計画しておくとよいでしょう。 |
| 食事 | 多くのイスラム教徒は豚肉、アルコール、それらに由来する原材料を避け、イスラムの規定に沿って処理された肉(ハラール)のみを食べる方もいます。気をつける度合いは人によって異なります。 | 弁当を持参する方も多くいます。社員食堂や社内行事では、原材料(調味料に含まれるものも含めた豚肉とアルコール)を表示すると、本人が選びやすくなります。 |
| 社内行事 | 多くのイスラム教徒はお酒を飲みませんが、交流の場には喜んで参加する方も多くいます。行事の一部を控える方もおり、それは個人の選択です。 | 飲み会にはソフトドリンクで参加できます。ノンアルコールの飲み物や豚肉を使わない料理をいくつか用意しておくと、誰もが参加できます。 |
職場でのヒジャブ
ヒジャブ(インドネシア語ではjilbabとも呼ばれます)は髪と首を覆うスカーフで、着用するかどうかは個人の選択です。インドネシアのイスラム教徒の女性には、着用する方も着用しない方も多くいます。インドネシアの工場では、ヒジャブを着用した女性が生産ラインで働くのはごく一般的で、安全や衛生のルールを守るための実務的な方法があります。
- 機械の安全:頭に沿う形で垂れ下がる部分がなく、制服の中に入れ込むタイプであれば、巻き込まれのリスクを減らせます。スポーツ用ヒジャブやインナーヒジャブはこの用途向けです。
- ヘルメットと帽子:薄手のインナーヒジャブであれば、通常は保護帽や作業帽の下に着用できます。
- 食品工場とクリーンルーム:薄手のインナーヒジャブの上から衛生帽やフードをかぶるか、頭と首を覆うフードで同じ役割を果たすことができます。
- 服装:長袖や長ズボンは、通常の作業服と問題なく両立します。
- 事前に取り決める:入社前に安全と衛生のルールを説明し、認められるスタイルを一緒に決めておきましょう。
職場の受け止め方も同じくらい大切です。ヒジャブを同僚の服装のごく普通の一部として受け止め、話題にしないことで、本人は安心して働きやすくなり、長く働き続けることにもつながりやすくなります。
お互いを尊重するために
入社時のオリエンテーションで簡単に説明しておくと、休憩時間に同僚が少し席を外したり、飲み会でお酒を飲まなかったりする理由を、日本人の同僚も理解しやすくなります。尊重は双方向です。インドネシアの人財にも、会社の規則、安全手順、日本の習慣に従い、要望は決められた窓口を通じて伝えることが求められます。双方が誰に相談すればよいかを知っていれば、小さな疑問が誤解に発展しにくくなります。
企業の方がよく感じること
一人ひとり異なりますが、企業の方からはいくつかの傾向がよく挙げられます。調和や助け合い(rukun、gotong royong)、礼儀正しさ、目上の人への敬意を大切にする方が多く、日本の職場文化と合いやすい面があります。また、信仰が誠実さや着実な勤務態度と深く結びついている方もいます。
関心も高まっています。厚生労働省によると、2025年10月末時点で日本で働くインドネシア国籍の方は228,118人で、前年から34.6%増加しており、主な国籍の中でも特に高い伸び率となっています。インドネシアは人口2億8,000万人を超え、生産年齢人口も多い国です。
受入れ前のチェックリスト
- 礼拝:どの休憩時間に、どのくらいの時間、どこで行うか。
- 金曜礼拝:シフトや休憩の調整が必要か、必要な場合はどのように行うか。
- ラマダン:休憩のタイミング、重作業や暑い場所での作業、イドゥル・フィトリ前後の休暇。
- 食事:社員食堂や弁当の扱い、原材料の表示。
- ヒジャブと保護具:ヘルメット、帽子、フード、制服と合わせて認められるスタイル。
- 社内行事:ノンアルコールの飲み物と料理の選択肢。
- 相談窓口:迷ったときに、働く方と日本人の同僚が誰に相談すればよいか。
おわりに
目指すのは特別扱いではなく、お互いの理解です。ここで挙げた点の多くは小さな工夫で対応でき、入社前に取り決めておくことで、企業と働く方の双方が安心して、長く一緒に働きやすくなります。
Jobagus.idは、インドネシアの人財と日本の企業とのマッチングを支援しています。必要に応じて、こうした点をマッチングの前に企業と候補者の間で事前にすり合わせるお手伝いができればと考えています。
出典:インドネシア内務省人口・住民登録総局(宗教別人口、2024年上半期、databoks.katadata.co.id経由)、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(mhlw.go.jp)、インドネシア労働法(2003年法律第13号)第80条、労働基準法第34条、観光庁「ムスリムおもてなしガイドブック」(mlit.go.jp/kankocho)。
本記事は2026年10月時点の一般的な情報です。信仰の実践は人や地域によって異なります。具体的な取り決めについては働く方ご本人と話し合い、必要に応じて公式情報や地域のモスク、ムスリムコミュニティにもご確認ください。